FTM-10S無線機で使用するマイクの実験

バイクに搭載することを前提に設計されたFTM-10Sアマチュア無線機。私の愛車のバイクVFR750F(RC36)にもツイこの間、取り付け作業をしました。
そして、実際に走行中の通話テストをした結果、いろいろと課題があることが判りました。

https://…/2009/08/06/ FTM-10S無線機取り付け作業

今回はマイクについていろいろと解析をしてみることにします。


そもそもヘルメットに装着して使用することを前提としているマイク自体がほとんど存在しておらず、容易に入手可能なマイクだとほぼケテル製に限られてしまいます。
私の場合は・・・・白バイ用マイク、クラリオン製"EMA-036-102"を使用しています。これならバイクでの使用が問題になることはないはずです。

・クラリオン EMA-036-102 ・クリップで挟んで固定するマイクです

ところがこのマイク、スペック等が一切不明なため、旧来のバイクに車載していた無線機(八重洲無線製 FT-728)に接続して使用する際に、とりあえずコンデンサマイクであろうと仮定して配線をしたら動作したぐらいしか情報がありません。


が・・・・、実際の走行中の通話テストの際に・・・・

https://…/2009/06/14/ さくらんぼ狩り&SL見学ツーリング

1. マイクの感度が良すぎて、音声以外の他の音を拾いすぎている
2. 無線機のマイクアンプの増幅度が大きすぎて飽和してしまい、音声の割れがひどい!(←過変調)

といった問題点が見つかりました。
FT-728ではマイクの入力レベルの変更が出来ないので諦めていたのですが、FTM-10Sであれば変更可能! そこでいろいろと調整してチャレンジしたのですが、やっぱり結果は同じなのでした。


バイクで信号停車中に普通の声でしゃべっているつもりでも、『声がデカい! もう少し小声でしゃべって~』と注意される始末。何かがおかしい(?)


そこで、いろいろとマイクについて確かめてみることにしたのでした。

マイクの種類

マイクに種類があるんですね~。エレクトレット・コンデンサマイクと、ダイナミックマイクという種類があるそうです。

種類 利点 欠点
コンデンサマイク とにかく繊細。微細な音でも拾える 衝撃に弱い
ダイナミックマイク 構造が単純で、耐久性がある 微細な音(特に高音)は拾いにくい

なるほど~、ずばり感度が良すぎるというのはコンデンサマイクの特徴のひとつでもあるのかな(?)


実は、先に紹介した白バイマイクは『アームが曲がらないもの』なのですが、現行の白バイ隊員が使用しているマイクは『アームが曲がる』のです。
今使っているマイクが壊れたときの予備も兼ねて、アームが曲がるマイクも入手していたのでした。(←最近は入手困難らしい。)

・もうひとつのマイク ・クラリオン DMA-160-210

ところが、いろいろと調べるとクラリオン製のマイクの『EMA』型番はエレクトレット・コンデンサマイクで、『DMA』型番はダイナミックマイクであることが判りました。


なるほどこの二つのマイクを取り替えて実験してみるもの良さそうです。
しかし、そもそも同一駆動回路で使用できるのかも不明であるため、EMA/DMAを双方比較しながら計測してみることにしました。

測定準備

FTM-10S無線機本体はバイクにガッチリと固定してしまって取り外すのが面倒であるため、等価回路を用意することにしました。
取扱説明書から仕様を確認すると『マイクロフォンインピーダンス 2kΩ』とありました。後は、コンデンサマイクに直流電源を供給するための抵抗と、そこから交流成分のみを取り出すためのコンデンサを、実際のバイクに設置しているのと同じように接続しました。

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・今回の実験回路図

そして、マイクへの入力として、パソコン上で音声帯域の正弦波を発生させるフリーソフトがあったのでそれを利用してスピーカーから音を鳴らして拾わせることにします。

・回路はブレッドボードに構築 ・マイクのRCA端子にワニ口 ・マイクはPCスピーカーに密着

そして、電源電圧を変えたり、PCからの正弦波の音量を変えたり、周波数を変えたりと各種条件を変化させ、その都度マイクからの出力をオシロスコープで測定します。
想定される条件内での変化をさせても、マイク出力が綺麗な正弦波が現れるのかをテストするのです。
これにより、マイク自体の問題なのか、それ以外なのかを切り分けるのです。

信号測定

まず始めに、実験回路自体に問題がないのか、電源電圧+5[V]、400[Hz]正弦波をそれなりの音量で発生させ、出力を測定してみました。(残念ながら音量を数値化する手段がないので、音量だけは人間の感覚です。)

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・EMA 電源電圧: +5[V] , 音声入力: 400[Hz]正弦波

おっ! 綺麗な正弦波が現れました
それでは、まず最初の懸念であった、大きな音声入力をした際に波形が歪んでいる(or クリップしている)のでは(?) という点を確認してみます。徐々に音量を上げていきながら波形を測定していきます・・・・

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・EMA 電源電圧: +5[V] , 音声入力: 1,000[Hz]正弦波 , 音量: 低 ・EMA 電源電圧: +5[V] , 音声入力: 1,000[Hz]正弦波 , 音量: 中
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・EMA 電源電圧: +5[V] , 音声入力: 1,000[Hz]正弦波 , 音量: 大

ぐわっっっ!!! 思いっきり波形が歪んでいるジャン!!!


ん(?)(?)(?)
PCから出ている1,000[Hz]がおかしいよ。大音量にしたら人間の耳でも識別できるほどに音が変! これだと、マイクが悪いのかPCが悪いのかわからないじゃん!


でも、かなり大きな音を拾わせても綺麗な正弦波が出ているので、マイク側の出力が歪んでいることはなさそうです。
あと、気になるのが電圧振幅が約0.25[Vp-p]ほどあります。これが無線機側の要求する入力レベルを一致していない可能性があるのですが、残念ながら無線機の仕様に要求レベルの記載はありませんでした。


ちなみに、同じ測定を、ダイナミックマイクの"DMA-160-210"でも行ってみました。

・DMAマイクもPCに密着して音を拾わせます

ダイナミックマイクだから直流電源無しで動作するのかと思ったらダメで、コンデンサマイクのように直流電源を供給してあげなければなりませんでした。きっとマイク自体にアンプ回路が内蔵されていると推定されます。
そして、測定結果がコチラ。

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・DMA 電源電圧: +5[V] , 音声入力: 1,000[Hz]正弦波 , 音量: 低 ・DMA 電源電圧: +5[V] , 音声入力: 1,000[Hz]正弦波 , 音量: 中
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・DMA 電源電圧: +5[V] , 音声入力: 1,000[Hz]正弦波 , 音量: 大

あらら、面白い結果が出ました。歪み方がまったく違います。一定の音量を超えると三角波が測定されました。きっとダイナミックマイクの特性『高音域が弱くなる』通りの結果だと思います。
でも、電気的な出力レベルはEMA/DMAほぼ一緒で、こちらも約0.15[Vp-p]となりました。


ココまでで、電源電圧でのクリップ説はほぼ否定されたのですが、念のため電源電圧+3[V]でも計測しましたが、結果は同一でした。

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・EMA 電源電圧: +3[V] , 音声入力: 400[Hz]正弦波

それにしても大きな出力だ・・・・。0.25[Vp-p]って相当大きいような気がする・・・・。大きな出力で後で減衰させるのであれば、対ノイズ的には有利だと思われます。

考察

以上より、いろいろと考えてみました。

  • PCからの音声出力の音量を上げたとき、人間の耳でも識別できるほど音が歪んでいる。このことから大音量時はPCからの正弦波が歪んでいると考えられる。(証明する術はなし。)
  • EMAマイクは、かなりの大音量入力時でも低ひずみであると考えられる。しかし、入力のひずみが数値化できていないため、推測の域である。
  • 実際のバイクで使用している電源電圧+5[V]では、波形がクリップしてしまう現象は見られなかった

このことから、(まったく推測だけで証明できていないけど)EMAマイクはかなり忠実に音声を拾っているものと考えられます。

  • EMAマイクの信号出力は、最大時で0.25[Vp-p]程であった
  • FTM-10S無線機が要求するマイクの信号レベルについては資料に記載がない。また付属の回路図を追いかけても、MIC信号はフィルタ/カップリングコンデンサを経由して半導体チップに入力されており、詳細を明らかにすることは出来なかった。
  • 市販のKTELマイクの信号レベルのカタログスペックをインターネットで調べてみたが、明らかにすることは出来なかった
  • バイク用ではないアマチュア無線のマイクの信号レベルのカタログスペックを調べてみたが、0~30[mVrms]や、0~50[mVrms]のものを見つけた。

調査した絶対数が少ないため確定できないのですが、EMA/DMAマイクの出力する信号レベルが大きすぎるため、無線機での変調が深くなっている(→無線機入力が飽和してクリップ→歪んでいる)と考えられます。

ピークtoピーク電圧から、実効電圧に換算してみました。正弦波だから換算は簡単!
0.15[Vp-p] --> 150[mVp-p] --> 75[mVp] --> 75 ÷ 1.41421356 ≒ 53.3 [mVrms]
0.20[Vp-p] --> 200[mVp-p] --> 105[mVp] --> 100 ÷ 1.41421356 ≒ 70.7 [mVrms]
0.25[Vp-p] --> 250[mVp-p] --> 125[mVp] --> 125 ÷ 1.41421356 ≒ 88.3 [mVrms]
EMAの場合だと、半分ぐらいにしたほうがよさそうです。

う~む・・・・。実機で測定してみたいよ~~~~。とりあえずマイク信号を少し減衰させる作戦とするかな。
でもどのくらい減衰させるのか、カットアンドトライが続きそう。先は長いな・・・・。

https://…/2009/08/27/ マイク入力アッテネータの定数計算